2016年5月14日(土) 第89回日本整形外科学会学術総会

就寝中の寝返りのビデオ解析による特徴点の基礎評価―運動器疼痛管理に役立つ至適睡眠姿勢での検討―

日時:2016年5月14日(土)-
場所:パシフィコ横浜
ポスター発表:山田朱織
タイトル:就寝中の寝返りのビデオ解析による特徴点の基礎評価―運動器疼痛管理に役立つ至適睡眠姿勢での検討―

6号整形外科 山田朱織    東京工科大学 星徹  
東京大学大学院22世紀医療センター運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント 岡敬之 松平浩

目的
睡眠障害は疼痛遷延の危険因子であり、運動器疼痛の管理には良質な睡眠が不可欠で、その重要な要素のひとつに就寝中の寝返りがある。寝返りの目的は体液循環、体温調節、脊椎リアライメント等といわれるが、すべてのメカニズムが解明されてはいない。また寝返りの定義や判定基準も一定の共通見解がない。我々は経験医療として、症状を改善する「スムーズな寝返り」を実現する寝具の調節方法Setup for Spinal Sleep Total(SSS-T)を確立した。モーションキャプチャを用いた寝返り動作の4D解析で、至適睡眠姿勢すなわちスムーズな寝返り(回転動作)を定量的に評価し本学会で2010,2013年に発表した。しかしこれらは覚醒状態でのシミュレーションベースの検討であったため、本研究では睡眠状態のリアルなビデオ解析から、実際の寝返りの特徴点の観察および定量的評価を行った。

対象・方法
対象は健康なボランティア17名、平均年齢42.5歳、男性9名女性8名であった。SSS-T法(Fig1.)を用いて枕の高さと寝台の沈込を調節した。調節したMAKURAinBED(Fing2.)に寝てビデオ撮影を3日間施行した。目視にて頭と体、頭体同時の3つのパターンについて観察し(Fig3-1.) 、寝返りの角度から臥位姿勢を判定し(Fig3-2.)、 その時間と位置を記録し平均寝返り回数(T)と平均寝返り間隔(TI)を算出し

結果
結果1.平均睡眠時間は6時間で、Tは頭24(5-56)回、体16(3-47)回あり、頭体同時Tは15(2-47)回であった。すなわち、頭のみの寝返り数は頭体同時Tより9回多く、体のみの寝返り数は頭体同時Tよりも1回多かった。頭体同時寝返りを男女比較すると、男性平均17回、女性平均13回で、男女間の有意差はなかった。
結果2.TIは頭15分、体23分であった。寝返り間隔の時間分布をみると、10分以内に次の寝返りが発生する回数は、頭は14回で全寝返り回数の60%、体は9回で56%であった。寝返り間隔の時間分布を平均的な例、多い例、少ない例について示す。とくに寝返りの多い例では10分以内の寝返りの割合が大きかった。頭のほうが体よりその傾向が強かった。
結果3.睡眠時間帯(睡眠前半・後半)に分けて寝返り回数を検討すると、頭のTは前半13回、後半11回で、前半に多い例10名(59%)、後半に多い例7名(41%)であった。体のTは前半8回、後半7回で、前半に多い例5名(29%)、後半に多い例11名(65%)、前後半とも同じは1名(6%)であった。いづれも有意差は認めなかった。

まとめ
・我々がこれまで覚醒時に回転動作として動作解析してきた寝返りについて、実際の睡眠中の体動として寝返りをビデオ解析した。先行する睡眠観察研究において一定の寝具条件はなく、選択した寝具(枕や寝台)が結果に影響を与える可能性も考えられる。そこで我々は臨床症状の改善を検証してきたSSS-T法で寝具条件を決定することで、就寝中の至適睡眠姿勢における観察を行った。
・睡眠医学において Tは20回前後といわれるが寝返りの定義や頭・体等の身体部位や回転角度の判定基準はない。今回は頭、体。頭体同時に分けて観察したが頭は前記の範囲内であり、体・頭体同時はこれより少ない結果となった。男女の有意差はなく、個人差は大きかった。TIは10分以内が頭、体とも約6割となった。
・睡眠は生理学的に2種類の眠りすなわちレム睡眠とノンレム睡眠があるが、ノンレム睡眠からレム睡眠への移行が体動の粗大な動きすなわち寝返りを契機に生じることがあり、両者は関与していると考えられている。明け方にノンレム睡眠が減少しレム睡眠が増加し覚醒するため、寝返りが増加する傾向があるという。今回の結果でも睡眠の前後半の比較で、有意差はないものの、睡眠の後半で体の寝返りが増加する例が多い傾向がみられた。
・「寝返り」の研究はリハビリテーション医学と睡眠医学の2つの分野で散見されるが、そのとらえ方や解析方法には大きな差がある。前者では寝返りを覚醒時の「体位変換」や「回転動作」ととらえ運動解析が主である。一方後者では寝返りを睡眠中の「体動」とくに体幹四肢に及ぶ粗大な動きととらえ、生理学的解析(脳波や筋電図等)が主である。我々は覚醒時に最もスムーズな回転動作ができる枕調節を行うことで、就寝中に生理学的にも至適な体動(寝返り)ができるのではないかと仮説を立てている。しかし寝返りのメカニズム等が解明されていないため、本研究では第1歩として寝返りを頭と体に分けて回転角度を定義し観察し、特徴点を定量化し寝返りの基礎評価を示した。